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第2回 “風通しの良い職場作り”と“データ分析”でホテリエとしてのプロフェッショナルを目指す -- 株式会社プリンスホテル 執行役員 品川プリンスホテル 総支配人 佐々木 潤 氏

更新日:5月19日



1986年に株式会社プリンスホテルに入社後、20年以上にわたり品川プリンスホテルの変遷を見つめてきた佐々木 潤 総支配人に、ご自身のキャリアおよび社内コミュニケーションの重要性について伺いました。また、時代の変化に合わせて、若手社員の意見を取り入れ、常に進化を続ける品川プリンスホテルの歴史や今後の未来についてもお話をいただきました。(聞き手:TrustYou代表取締役 設楽 奈央)


設楽:まずは、佐々木様がホテルに携わるようになったきっかけを教えていただけますでしょうか。


佐々木氏(以下、敬称略):子供の頃、両親に当時の赤坂プリンスホテルへ食事に連れて行ってもらう機会がよくあったのですが、サインドウィッチのサイドメニューにポテトチップがあり、それがとても美味しく、大好きでした。このような経験がきっかけとなり、ホテルマンに憧れるようになりました。そして、学生の頃、英語が得意で、英語を活かせる仕事につきたいと思い、ホテルへの就職を志望しました。


 また、プリンスホテルで私のキャリアをスタートさせることになったもう一つのきっかけは音楽です。私は3才の頃に、兄の影響でピアノを習い始め、小学校6年まではピアノを続けていました。中学入学後は吹奏楽部で管楽器を始め、高校時代も吹奏楽部を、関東大会、全国大会を目指して真剣にやっていて、県大会で金賞を取ったこともあります。入社時の履歴書には楽器を演奏できる事については書いていなかったのですが、趣味の欄に“音楽観賞”と書いていました。人事担当者と面談の際に話の流れの中で、私が楽器を演奏できることに担当者が興味を持ち、入社後はフロントへ配属されましたが、当時会社として力を入れていたプリンスホテル社会人野球チームの応援団の仕事も入社後すぐに担当することになったのです。


設楽:ご入社後、応援団からのスタートだったのですね。


佐々木:はい。応援団は、8年間続け、最後の5年間は指揮者(責任者)を任されました。チームが初めて都市対抗野球で優勝した際にも責任者を担当していましたが、それがその後の会社生活で役に立つ経験となりました。入社後の8年間は、年間9ヵ月はホテルで仕事をするのですが、残りの3ヵ月間は応援団をやっていました。期間を合計してみると、8年間のうち2年間分は応援団の仕事に時間を費やしていたことになります。何も考えずにひたすら仕事をしている時期でしたが、それがホテリエとしてのスタートでした。


 その後も、ブライダル部門、宿泊部門、本社でキャリアを積む中で、ずっとプリンスホテルでやっていこうという気持ちがますます強くなりました。


設楽:それこそがプリンスホテル様の魅力だと思うのですが、このままプリンスホテルで頑張って行こう!という気持ちはどのように湧いてきたのでしょうか?


佐々木:もちろん自社のブランドにも魅力がありますし、日本で一番売上高のあるホテルであるという自負もありました。また、弊社は社員のやりたい事をやらせてくれる会社でもあります。私自身、応援団をやらせていただき、応援団コンクールでも2回最優秀賞を取るという貴重な経験もさせていただきましたし、仕事でも色々なことを自ら企画し、自ら指揮をとるというダイナミックな経験もさせていただきました。


 品川プリンスホテルのブライダルセールス課に配属された時でも、価格を下げても品質を落とさないようなブライダル商品を自ら企画、販売することができ、婚礼の件数も年間で1700件以上までに伸ばしました。


 その後、宿泊部門に配属され、いかに稼働率を上げるのかを模索している際に、“レベニューマネジメント”という手法に出会います。自らレベニューマネジメントを勉強することになりますが、社内で実践をし、経営陣へもその重要性を伝え、社内で啓蒙活動をする機会も与えていただきました。そのように、自分が大事だ!今取り組んだ方が良い!と思ったことは、比較的大胆かつ自由にやらせていただいたと思っています。



3008室を埋めなくてはならないという課題から始めたレベニューマネジメント


設楽:佐々木様には、レベニューマネージメントの専門家というイメージがあリますが、その前に色々なご経験をされているのですね。


佐々木:はい、ホテル業界内でもそうですね。総支配人というより、業界の中でも“レベニューマネジメントの佐々木さん”とイメージを持たれている方も多いと思います。まずレベニューマネジメントに興味を持ったきっかけですが、品川プリンスホテルのブライダルセールス課で業績を上げた後に、宿泊部門に異動した際から始まっています。当時品川にはイーストタワー、ノースタワー、メインタワーの3棟あり、合計の部屋数は3008室でしたが、その莫大な数の部屋を埋めなくていけないという課題がありました。


 1990年代の後半で当時パーソナルコンピュータが普及し始めた時期でしたが、レベニューマネジメント・システムの提供を開始していた会社と契約し、私もシステムが好きだったので、独学で勉強をしていきました。コーネル大学の論文でも発表されていた“レートコントロール”を知り、とても興味が湧きました。自分で勉強をし、知識のある方に話を聞き、そういった知識や興味のある方たちとのネットワーク作りも積極的に行いました。


設楽:プリンスホテルに対しては、伝統的で歴史や風格のある会社のイメージを持つ方が多いように思いますが、お話を伺っていると、社員の方が意見を通しやすい風通しの良い企業風土をお持ちなのでしょうか。


佐々木:そうですね。40代後半の総料理長も総支配人である私に気さくに話しかけてくれますし、若い社員の意見も上がりやすくなっていて、昔に比べると変わったという印象があります。売り上げを上げていくためにも、従業員同士のコミュニケーションは必要不可欠だと思っています。



スタッフ間のコミュニケーションから生まれた東京都民応援キャンペーン


設楽:現在コロナ禍で、お客様のニーズも変わり、これまで蓄積してきた経験や手法が使えなくなってきています。どのようにスタッフ間でのコミュニケーションを図り、お客様に対応するか、やはり迷われますよね。


 昨年、非常事態宣言下で人が動かなくなった際、東京都民の皆様に対してホテルとして何か還元したいという思いから、「東京都民応援キャンペーン 〜I LOVE TOKYO〜を企画しました。東京都在住の証明書を出していただければ、館内で使える5000円の利用券を提供するなど、いくつかの特典を付けました。


 また、レストランで、ブッフェ形式での食事が提供できなくなる、宴会のキャンセルが増えるといった難題が出てきた際、最初に企画が上がり、実施したのがレストランでのワゴンサービスでした。当館のランチブッフェの売りの一つは“カニ食べ放題”ですので、社員にカニのかぶり物を着けて、ワゴンサービスをして接客をしてもらいました。実はこの企画は、この状況下でせっかくいらしてくださったお客様を楽しませたい!と、若手スタッフが提案してくれたものなのです。それがお客様にも好評で、メディアにも取り上げられました。お客様に心ゆくまで楽しんでいただくため、従業員にはアクター&アクトレスになってもらうことが大事であると改めて気付かされました。


 朝食はカフェテリア形式にしています。マイトングやお客様にビニール手袋を使っていただいたりして、ブッフェ形式を続けるかどうかという議論もありましたが、お客様が満足できる環境を何とか作りたいという思いからカフェテリア形式を取り、安全・安心を担保しながら満足いただけるお料理や品数を揃えさせていただく工夫も始め、続けています。



エンターテイメントホテルとして進化を続ける品川プリンスホテル


設楽:お客様に楽しんでいただきたい、満足していただきたいという思いから生まれた“お客様ファースト”の発想ですね。


佐々木:はい。品川プリンスホテルは、“エンターテインメントホテル”と位置付けています。私が入社した時は、ホテルとしてあった建物はイーストタワーのみでした。現在のメインタワーがある場所には、アイススケートリンクが2つあり、夏になるとプールとなる多目的広場と、とボウリング場がありました。どちらかというとスポーツエンターテインメント施設という雰囲気でした。


 メインタワーが開業した頃から変わり始めて、アネックスタワーの開業の際には、クラブex、ステラボールなどライブハウスのような施設も開業しました。そして、2005年に水族館がオープンし、エンターテインメント性がより強くなってきました。


 また、2003年に東海道新幹線の品川駅が開業してから、品川駅周辺は大きく進化しました。この先も品川、高輪エリアの再開発事業に伴い、色々な変化があると思います。リニアモーターカーが品川に発着するようになれば、品川にさまざまな人が訪れることになり、新たな品川を楽しめるのではないでしょうか。


設楽:プリンスホテルが織りなすエンターテインメント性が変化したり、進化したりしているのも、街の変化に合わせる必要があるからでしょうか。品川駅前エリアの文化発信もプリンスホテルの役割であると考えると、常に変わり続けなくてはいけないですね。


佐々木: はい。お客様の行動や価値観も変わっていく中で、常に先を見据えて予測をしながら、マーケティングの方法や運営も変えていかなくてはなりません。品川プリンスホテルは、他のプリンスホテルに比べると、エンターテインメント性を持つ、少し尖ったホテルですので、若い世代の意見が大切です。そのためには、上司は何でも話しやすい、意見を伝えやすい上司であることが大切です。例えば私も、2020年度の新入社員には、なるべく声をかけ、風通しの良い人間関係が構築できるようにしています。


設楽:素晴らしいですね。総支配人から声をかけられたスタッフの方は絶対に忘れないと思います。気にかけてもらうことの大切さを学んだスタッフの方は、お客様にも同じことをされるのではないでしょうか。


佐々木:そうなって欲しいですね。地でホテルマンをアクター&アクトレスとしてお客様の前で演じ切れるようなプロフェッショナルになって欲しいです。また社員には、ベテランではなくプロフェッショナルになって欲しいと思います。支配人や料理長などの管理職をはじめ経験者であるベテランが、若い人の意見に蓋をしてしまうようではいけません。


設楽:社員の方が自分の仕事に自信やプライドを持てれば、お客様への接し方も磨かれ、満足度も上がりますね。


佐々木:はい、その通りです!お客様の満足度は、TrustYouのクチコミ評価のデータで常に確認しています。また、そのデータを活用してADRも上げられると思っています。お客様の価値観は千差万別で異なりますが、お支払いいただいた金額が妥当であれば、これは安い、買って良かったと感じます。逆に高いと思うと不満につながります。


 お客様は満足された場合と不満足の場合のみクチコミを書かれます。何も感情に残らないとコメントは残しません。弊社では、なるべくお客様にコメントを書いてもらいたいと思っています。そして、それを真摯に受け取るということが重要です。


 レベニューマネージメントにおける競合分析の観点では、自施設が競合に勝っているかどうか、MPI(稼働率指数)、ARI(平均客室単価指数)、RGI(収入指数)の3つの指標を確認します。TrustYouの競合インデックスを比較してみると、価格とクチコミ評価スコアの相関性が意外と見えてくるのです。この分析を強化するためにTrustYouの導入を進めたのも事実です。実際に上がってきたお客様の声をCS担当者から担当部門に伝えることで、アメニティーの見直しなども積極的に取り組んでいます。


設楽:御社ではこのご時世、清掃は大切であるというお客様の声を捉え、社員の方が自ら手が空いている時に清掃をしていると伺いました。そのようなホテルは稀だと思いますが、これはプリンスホテルとしての取り組みの一部なのでしょうか?


佐々木:実はこれは、比較的社員が自発的にやってくれています。もちろん、素人では対応できないクリーニングはプロの取引先に頼んでいますが、お客様の満足度を少しでも改善していきたいという社員の意気込みや意識の高さを改めて実感しています。



風通しの良い職場を作るためのコミュニケーション


設楽:お客様からのお褒めのコメントを見ると、スタッフの皆さんもやりがいを感じ、やってよかった、もっとやろうと思われますよね。


佐々木:はい。私からも「改善したらぜひ報告して欲しい」、「こんなコメントを頂けて良かったね」、などと館内でスタッフとコミュニケーションを取っています。最近も和食調理担当が作った、あしたばのおひたしや、大きなサワラの焼き魚が美味しかったのですが、それも若い担当者が発案したメニューだったことがわかったので、美味しかったよと私も調理場に出向き、自らフィードバックをしたりもしています。


設楽:できる上司ほど、暇に見えるというのはポイントであるとよく言いますものね。部下は話しかけやすくなりますから。


佐々木:私は館内をよく巡回しています。たまに私が現れるとスタッフ同士がインカムで連絡を取り合ったりしますが、頻繁に顔を出すとそのようなことはなくなり、構えなくなります。それが風通しの良さだと思います。


設楽:最後になりますが、今だからやれる事、今後の展望などがありましたら、お聞かせください。


佐々木:今は、何が成功で何が失敗なのか判別できない状況ですので、逆に何でもできるのではないかと思います。お客様のご迷惑にならないこと、事故などにつながらないことであれば、何でもチャレンジ、トライして良いのではないかと思います。失敗を恐れずに、まずは意見を口に出して行動してみること、そのための第一歩として、まずは、お客様のために何ができるかを真剣に前向きに考えることが一番大事だと思います。


設楽:本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。


品川エリアと共に進化する品川プリンスホテル

佐々木 潤 氏 プロフィール

1986年株式会社プリンスホテル入社後、品川プリンスホテルに配属、ブライダル部門、宿泊部門を経た後、2008年に品川プリンスホテル宿泊支配人に着任する。その後、2009年に高輪・品川宿泊営業総支配人を経て、2010年に本社に異動。本社では、営業部長、営業第2部長、レベニューマネジメント部長としてグループ全体の営業およびレベニュー管理を統括、2017年には執行役員レベニューマネジメント部担当兼レベニューマネジメント部長に着任する。 2020年4月より現職。

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