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第8回 多角的な事業ポートフォリオ構築による戦略的な 「エアトリ経済圏」の強化 -- 株式会社エアトリ 取締役CSO(最高戦略責任者)二井矢 祥 氏

更新日:2023年5月19日


「One Asiaアジア黄金期におけるリーディングカンパニーになる」という企業理念のもと、エアトリ旅行事業を始めとして、ITオフショア開発事業、訪日旅行事業/Wi-Fiレンタル事業、メディア事業、投資事業(エアトリCVC)の5事業を手掛ける株式会社エアトリ(証券コード:6191 東証プライム)。同社が展開する総合旅行プラットフォーム「エアトリ」におけるホテルの予約ページでは、TrustYou株式会社が提供する旅行者のクチコミデータをご活用いただいております。今回のトップインタビューは、東証プライム上場企業である株式会社エアトリ 取締役CSO(最高戦略責任者)の二井矢 祥(にいや しょう)氏をお招きし、エアトリグループの成長戦略や投資戦略、コロナ前から現在までのエアトリグループの取り組みの成果、そして今後の展望等についてお話を伺いました。(Interviewer:TrustYou株式会社 前代表取締役 設楽 奈央)


設楽:まず、二井矢様のプロフィールを教えていただけますでしょうか。


二井矢氏(以下、敬称略):私は慶應義塾大学経済学部在学中の20 歳の時に、戦略コンサルタントとして起業し、個人事業主として事業活動を開始しました。活動当初は、経営戦略から新規事業開発、オペレーション業務改善等のコンサルティングサービスをハンズオン型で提供していました。大学卒業が見え始めた頃から、事業活動のステージをグローバル企業の経営領域に広げていきたいと思うようになり、大手外資系経営コンサルティングファームであるデロイトトーマツコンサルティングと業務連携し、CFOアジェンダを中心に財務戦略や資本政策の策定、組織再編ストラクチャーや事業再編プランの立案・実行、M&A 戦略策定からDD、クロージングにおける投資意思決定支援等のコーポレートファイナンス領域における数多くのプロジェクトの責任者として従事していました。


その後、世界最大級の外資系経営コンサルティングファームであるアクセンチュアに参画し、数百名のコンサルタントが属する戦略コンサルティング本部のマネージング・ディレクター(共同経営者 兼 統括責任者)として、日本を代表する大企業の成⾧戦略や事業戦略の策定、最先端テクノロジーを活用したDX 戦略やデジタルプラットフォーム構想の立案・実行、データアナリティクス及びAI 活用戦略の立案・実行等、戦略×最先端テクノロジーをテーマとするコラボレーション型プロジェクトを統括し、数多くの経営課題解決及び企業価値向上に貢献して参りました。こうして、20 代のうちに戦略コンサルタントとして最高峰のキャリアを築き上げることができたことにより、様々な業界・業種を俯瞰して見つつ、新興市場の潮流や成⾧ドライバーを見極める目を早期に養うことができ、現在のビジネス展開に活かすことができているのではないかと考えています。


そのような戦略家、大手外資系経営コンサルティングファームの共同経営者としてのキャリアを歩んでいる最中、エアトリに出会い、同社がこれまで培ってきたアセットやノウハウを活用し、戦略的なビジネス展開を推進することにより、更なる企業体へ変貌を遂げると確信し、令和元年初日に CSO(最高戦略責任者)としてエアトリに経営参画しました。現在、取締役CSO として、中期成⾧戦略「エアトリ5000」及び単年度の事業戦略の策定、投資事業におけるM&A 戦略の立案から DD、クロージング、PMI までの一連の M&A プロセスの実行、エアトリグループ全体の事業ポートフォリオ管理及び予実管理の統括、決算説明資料の統括等を担い、エアトリ旅行事業に限らず多角的に事業ポートフォリオの再構築を推進することにより、グループ全体の企業価値向上に向けて、戦略領域から経営をリードしています。


設楽:御社の2022 年の第一・二四半期の決算発表を拝見しましたが、第一・二四半期累計の営業利益が過去最高を更新されたそうですね。このご時世で最高益を更新できる会社は非常に限られていると思います。御社の現経営陣は旅行に限らず、先見の明をお持ちの方が多く、事業ポートフォリオを上手に構築されていて、どこにどのように注力すべきか、そのご判断が秀逸なのでしょうね。


二井矢:弊社の創業者である会⾧の大石を筆頭に、社⾧兼CFO の柴田、昨年末まで COOで、現在は弊社グループ会社であるインバウンドプラットフォーム(IPC)の社⾧の王、といった弊社のトップ経営陣(トップ・マネジメント)が、東証プライム上場後(旧:東証一部上場後)においてもエアトリグループ全体の成⾧を牽引しており、これまで培ってきた事業展開ノウハウや「エアトリ」というブランド力、更に弊社グループのアセットを存分に活かして、戦略的にビジネスを構築・推進しているというところが弊社の最大の強みだと思っています。


設楽:コロナ禍により、旅行者の旅行予約における購買体験がリアルからオンラインへ急速に進んでいく中で、エアトリ様では「商品のお得感」ですとか、「ユーザビリティ」といった部分に注力されてこられたのだと思いますが、コロナ前(コロナ禍に入る前)と現在の状況を比較して、どのような変化がありましたか。


二井矢:まず、コロナ前は、「エアトリ」サイトにおけるオーガニック流入(※エアトリキーワードでの検索やエアトリアプリによる流入を指す)による粗利益を向上させることを最重要KPI の一つに位置づけており、多方面への「エアトリ」ブランディングに大規模かつ積極的に投資しつつ、粗利益に対する広告費率を低減させることに注力していました。同時に、ブランディング効果により流入したユーザーを着実に取り込むべく、「エアトリ」サイトを日々徹底的に改善し、ユーザビリティを高めていくことにも注力をしていましたので、大規模マーケティング投資を含めると、当時の月間の販管費は現在に比べてかなりの金額になっていました。コロナ禍に入り、旅行収益のトップラインが大きく落ち込む状況下において、グループの全社的なコスト削減を実施し、損益分岐点を大幅に引き下げたことにより、営業利益ベースで安定的に単月黒字化を実現できていたことと、FY21.9 期から成⾧戦略「エアトリ “リ・スタート”」を掲げ、上場後の第1 ステージ(2016 年3 月31日から2020 年9 月30 日までの4 年半)に纏わる資産を整理(減損処理)し、上場後の第2ステージ(2020 年10 月1 日以降)として身軽な財務体質で、事業ポートフォリオの分散及び再構築の推進に注力できたことが、現在、企業成⾧に繋がっていると考えています。


設楽:コロナ禍における旅行閑散期の無駄なコストのたれ流しを早めにくい止め、様々な事業基盤の再構築に注力することができたということですね。


二井矢:はい、基本的に旅行業の収益構造として、仕入原価やオペレーションコストが大きなウェイトを占めており、マーケティング強化や品質向上をすればするほど、薄利多売となっていくビジネスモデルです。弊社はOTA(オンライン・トラベル・エージェント)の強みを生かし、固定費は徹底的に落としつつ、繁閑に応じた変動費のコストコントロールを行うことにより、グループ全体のキャッシュアウトコストの最適化を図っています。それについては、四半期ごとに発表している弊社の決算説明資料にてご説明させていただいていますが、こうした部分がコロナ禍における弊社の取り組みの成果だと思っています。


設楽:現在、注力されている事業領域、また今後注力される予定の事業領域などがあれば、教えていただけますか。


二井矢:弊社はエアトリ旅行事業を起点として、全部で5 事業を展開していますが、中でも特徴的なのが、投資事業(エアトリCVC)で、2016 年から開始しこれまで累計73 社、累計投資額は31 億円となり、IPO 実績が11 社(うち子会社上場1 社、関連会社上場1 社)を達成しています。事業会社が運営する CVC で、こうした投資実績を継続的に積み上げている事例は少ないと思いますし、その成果をエアトリ CVC レポートという形で開示している会社は、稀有なのではないかと考えています。投資事業(エアトリ CVC)では、投資領域を明確に定めている訳ではなく、仮にその時点では新興市場であっても、その後数年に渡って市場の大幅成⾧が見込まれる場合や自社サービスの競争優位性がある場合、弊社が当該領域に参入することで業界シェアを大きく取ることができると判断した場合等、総合的に見てIPO の蓋然性が高いベンチャー企業へ投資をしておりまして、「エアトリ経済圏」の将来的な拡大を企図して、幅広い領域へ積極投資を行っています。


設楽:御社の投資先は非常に業界・業種に関係なく幅広で、圧倒的なスピード感で様々な事業ポートフォリオの再構築を推進されていますが、その中でもやはりエアトリ旅行事業が御社ビジネスの中核となるのでしょうか。


二井矢:そうですね。エアトリ旅行事業が弊社ビジネスの起点となっており、IT×旅行における事業展開やマーケティング、システム開発等で培ってきたアセットやノウハウを他の事業領域に応用することにより、戦略的に事業ポートフォリオの分散及び再構築を推進しています。


設楽:なるほど。決算説明資料に記載のあった「エアトリ経済圏」は、そのようにして戦略的に構築していったということですね。


二井矢:具体的には、「エアトリ経済圏」におけるメディア事業を担う、メルマガ最大手のまぐまぐ(証券コード:4059 東証スタンダード)という会社がありますが、2017 年に子会社化し、それ以降堅調に事業進捗し、2020 年9 月のコロナ禍の中、弊社子会社として初めて上場を達成することができたことは、弊社が培ってきたアセットやノウハウが寄与した部分が大きいと感じています。またIT オフショア開発事業においても、2012 年以降ベトナムに開発拠点を持ち、⾧らく取り組んできたビジネスですが、その中核を担う関連会社のハイブリッドテクノロジーズ(証券コード:4260 東証グロース)が2021 年12 月に上場を達成(弊社グループ会社として2 社目の上場達成)することができたこともその一例だと思っています。


設楽:面白いですね。創業時より、エアトリ様は「アジアを繋ぐ架け橋となり終わりなき成⾧を目指す」という企業理念を掲げられていると思いますが、核(コア)となっているエアトリ旅行事業について、未来に向けたビジョンを教えていただけますか。


二井矢:コア事業であるエアトリ旅行事業については、成⾧戦略「エアトリ2022」で掲げている通り(決算説明書の Appendix 参照)、更なる戦略的な大規模マーケティング投資により、旅行業界最速で旅行収益の大幅拡大を目指しています。「エアトリ」のブランド力は多方面へのブランディング施策の継続と戦略的なマーケティング投資により築き上げたものであり、今後、コロナ収束に伴う旅行需要の大幅回復を見込んで、更なるブランド力の強化と需要増加に応じた最適な広告投下を計画しています。現在の旅行収益は、国内旅行領域が中心ですが、徐々に海外旅行領域の再開の兆しが見えてきており、高まる海外旅行需要の獲得に向けて、足元では様々な準備を進めています。


設楽:エアトリ様は、マーケットの潮流や顧客動向に合わせて、すごくフレキシブル(柔軟)に対応されていますよね。


二井矢:弊社は行動規範に「常にユーザーファースト」を掲げており、「エアトリ」サイトの改善を行う際には、顧客目線を常に意識したUI/UX 設計と徹底的な検証、改善を最速で繰り返しており、その点で弊社は非常にフレキシブルな組織だと思います。また日々変わりゆくお客様の需要に応えていくために、商品力の強化も欠かせません。当社の強みである航空券に加えて、宿泊施設との自由な組み合わせによる DP(ダイナミック・パッケージ)は、いまや「エアトリ」の主力商品となっており、その点でお客様から人気が高い宿泊施設を中心に、仕入強化を推進しています。いずれにせよ、「エアトリ」サイトのUI/UX 改善や商品力強化について、お客様の需要はどんどん多様化していますので、どこまで取り込むかは難しい判断となりますが、改善した結果として、お客様の需要がきちんと反映されたサイトになっているかどうか、お客様の需要を満たす商品ラインナップとなっているかどうか等、お客様の需要起点で旅行トレンドを創っていくサイトでありたいと思っています。


設楽:顧客需要は視覚化することによって、初めて顕在化することもありますからね。


二井矢:「エアトリ」サイト改善の基本的なプロセスとして、最初から理想的なUI を設計するのではなく、いくつかのパターンを設計した上でテストマーケティングを実施し、顧客需要を確認・検証しながら、サイトのあるべき姿を創っていくアプローチを取っています。その方がお客様の生の反応を捉えることができると考えていますし、それに対して弊社ならどう対応するかをUI 設計のプロとして検討することができると思っているからです。もしかすると、数年後には全く違ったサイトになっている可能性もあります(笑)


設楽:それは面白いですね。TrustYou では、ホテルのゲストの声をデジタル化、数値化し、時代によって変わるニーズやインサイトをホテルや旅行業界の皆様にお伝えしています。例えば、現在、ホテルの衛生管理(マスク、消毒、ソーシャルディスタンス等)の「コロナ対策」は当たり前となっていて、ゲストもあまり注目をしていません。逆にその延⾧線上の「清潔さ」については、敏感に見ています。また、コロナ前で売りであったブッフェスタイルの朝食をやめてしまったホテル様はなかなかクチコミのスコアが戻りません。これまで付加価値であったものもそうですが、ゲストが何を求めているかをいかにタイムリーに正しく把握するかがこの流動的な時代には重要ですね。


二井矢:お客様からの一つ一つの感想や意見ももちろん重要ですが、それらの感想や意見を集約すると全体としてどのような傾向があるのかを把握することはもっと重要なことだと感じています。弊社ある部分に対して、同じようなご意見やご指摘を頻繁に受けた場合は、そこが自ずと改善点となるはずですし、改善後も新たなご意見をいただくことで、改善度合いを確認することもできると思っています。


設楽:正直、まだまだ業界特性として、経験と勘で旅行業をやられているケースも少なくないと感じています。各社でデータドリブンである必要性は理解しているものの、ビジネスのDX 化がなかなか進められない、というお話を多く耳にします。


二井矢:旅行業を営まれている各社様においても、ユーザーデータから得た何らかの情報を自社サイトに最適な形で反映させることに苦労されている企業も多いのではないかと推察されます。そもそもどの情報が有用な情報で、それに対してどう対応すれば良いかの最適解を導き出すことが難しいからだと考えています。「エアトリ」サイトでは、TrustYouさんから実際にホテルに宿泊されたお客様の声を集約したクチコミデータを取り込んでおり、クチコミの導入後、ホテル予約のCVR(コンバージョン率)が向上したことから、クチコミの重要性を改めて認識し、それ以降、購買に直結する要素として積極的にサイト内に取り込んでいます。


設楽:ユーザーの方もクチコミを見慣れてきているので、悪いクチコミがないと、逆に疑心暗⿁になったりすることが分かっています。ユーザー側もフラットな視点で見ることができるようになっていますので、サービス提供側もそれを理解し、悪い点は良い方向に寄せていくという意味で、「自分たちが自負している自社の魅力主義」から脱却し、「カスタマーオリエンテッド」に変化していかないといけないのだな、と実感しています。


二井矢:TrustYou さんは、サービスを提供する各社が「カスタマーオリエンテッド」へ転換するきっかけを創り出し、クチコミサービスの提供を通じてその動きを牽引されておられると感じています。「エアトリ」サイト上でのお客様の動きの傾向を検証してみると、泊まりたいホテルのクチコミを確認してから、予約・購入することが割と普通になっており、今後、より一層多様化するお客様の声であるクチコミを重要視しつつ、更なるエアトリ旅行事業の成⾧に繋げていきたいと思っています。


設楽:本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。


二井矢 祥 氏 プロフィール

1986 年11 月23 日生まれ。北海道札幌市出身。

慶應義塾大学経済学部在学中より、戦略コンサルタントとして事業活動を開始。その後、自身が経営する戦略コンサルティングファームやアクセンチュア等の外資系経営コンサルティングファームにて、日本を代表する大企業の成⾧戦略や事業戦略の策定、M&A 戦略やデジタルトランスフォーメーション戦略の策定など、経営戦略領域における数多くの大規模プロジェクトの統括責任者の経験を有する。

現在は東証プライム上場企業である株式会社エアトリの取締役CSO(最高戦略責任者)として、中期成⾧戦略及び事業戦略の策定・実行、M&A 戦略の立案から DD、クロージング、PMI までの一連のM&A プロセスの実行、グループ全体の事業ポートフォリオ管理及び予実管理の統括等を担い、グループ全体の企業価値向上に向けて、戦略領域から経営をリード。


さらに、戦略コンサルティングやSI の提供並びに各業界のプロフェッショナル人材の最適かつ柔軟な活用を実現するためのビジネスマッチングプラットフォームを運営する株式会社プロビスの代表取締役会⾧ 兼 CEO、医療コンサルティング事業や医療プロフェッショナル人材エージェンシー事業を展開する株式会社集中メディプロの代表取締役社⾧ 兼 CEO、オンラインプラットフォーム事業及びテクノロジーコンサルティング事業を展開する株式会社らくだ倶楽部の代表取締役社⾧、SaaS サービスを展開する株式会社かんざしの社外取締役、AI やプロセスマイニングを活用したコンサルティング事業を展開する株式会社RPA NEXT の経営顧問等、経営者及び実業家として、様々な事業領域の企業経営を牽引している。

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