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  • 高津 暁

第1回 社員と共にお客様の期待値を超える上質を目指す -- アイアンドエフ・ビルディング株式会社 代表 泉 邦治 氏

更新日:5月19日



1973年に大阪で創業、1980年代にサンルートホテルチェーンへの加盟を皮切りにホテル業界に進出、日本のみならず海外にも積極的に事業を展開し、現在も国内で6軒のホテルを運営するアイアンドエフ・ビルディング株式会社。8年前に創業者の父から会社を継ぎ代表となった泉 邦治氏から会社の運営や社員教育、そして現場の声とお客様の声に耳を傾けることへの大切さについて伺いました。(聞き手:TrustYou代表取締役 設楽 奈央)


設楽:まずは、御社の概要とご自身のプロフィールについて教えてください。


泉氏(以下、敬称略):弊社ですが、昭和48年(1973年)に創業しました。2023年に50周年を迎えます。私の父が不動産管理会社を創業、当時は個人の資産を管理している会社でした。その後、1980年代にホテル業に進出、当時勢いのあったサンルートホテルチェーンに加盟しました。まずは、「ホテルサンルート梅田」の開業から始まり、その後、石川県で「ホテルサンルート小松」も開業しました。


 バブル崩壊後は経営が厳しくなりましたが、何とか立ち直ってからは、日光のリゾートホテル「ホテル花庵」、京都嵐山の宿泊・研修施設の「ホテルビナリオ嵯峨嵐山」、兵庫県の湯村温泉の「湧泉の宿ゆあむ」、石川「ホテルグランビナリオ小松」、計6軒のホテル・旅館を経営しながら、ここまでやってきました。私の方が2代目として家業を継いだのは8年前になります。また2019年4月にサンルートホテルチェーンを脱退し、他のホテルもグループとして独自ブランド【ビナリオホテルズ&リゾーツ】として新たなスタートをきっています(ホテルサンルート梅田→ホテルビナリオ梅田、ホテルサンルート小松→ホテルビナリオ小松セントレへ名称変更)。


設楽:以前にも少しお伺いしましたが、泉様は非常にユニークな経歴の持ち主だという印象を受けました。


泉:そこまでユニークでもないと思います。ただ、実際に挫折の人生を歩んできました。私は高校生の頃、音楽家になりたいという夢があり、音楽大学に入るために楽器ばかりやっていました。両親からは反対されながらも音大を受験しましたが、結局、受験はうまく行きませんでした。

 当時、弊社はアメリカのラスベガスで「サンレモ」というホテルをやっており、父はネバダ州のカジノライセンスを取った4人目の日本人でしたが、現地に住み着いてちゃんと経営をしたという意味では日本人で初めての人でした。そこにあるネバダ州立大学ラスベガス校(UNLV)への入学を父から勧められたのです。これまで音大に行きたいと父に反抗していましたが、観念して、一年間現地で語学を勉強した後、大学に入学しました。ただし、ご存知の通り、カジノの町、ラスベガスでしたので在学中はかなり遊んでしまいました。

 そんな中、1995年に阪神大震災がありまして、これは会社では話をしたことないですが、高校時代からお付き合いしている女性が地元の神戸におりまして、アメリカにいる4、5年間は遠距離恋愛状態でした。震災後に彼女と連絡が取れなくなってしまって、私も怖くなり、勉強をほったらかして日本に帰国するきっかけとなりました。その後、その彼女が私の妻となったので、結果的にはその時に帰国して良かったと思っています。


設楽:素敵なお話ですね。まさに大恋愛ですね。


泉:いえいえ、なかなかの腐れ縁だと思います。でも、あの時に帰国しなければ、結婚できなかったと思います。このように、私はいい加減に人生を歩んでいたのですが、帰国後も父の会社には入らずに他の会社で働いていました。


 その後、父の部下の方が、私がラスベガスで日本人のお客様向けにラスベガス市内のガイドツアーの仕事などをやっているのを見て、その働きぶりを覚えてくれていて、「ホテルサンルート関空」立ち上げの時のレストランマネージャーをやらないかと私を誘ってくれたのをきっかけに父の会社に入社しました。


 当時、バブル崩壊後で景気が悪化し、不動産会社としての弊社は厳しい状況になり、社員も暗い雰囲気の中にあり、とてもしんどい状況でした。もちろん、皆、私が社長の息子だというのは分かっていましたし、私自身、状況打開のために何もできないということも分かっていました。そんな中でも、社内の雰囲気を変えたいという思いから、少しずつ自分ができることを考えはじめました。


 結局、アメリカへの留学が良い経験になり、アメリカの価値観ややり方を元にアイデアを出し、それを少しずつ社内に取り入れていき、現在に至っているという感じです。



社員にとって働きやすく、過ごし易い、気楽な気分になれる、そう思えるような会社に


設楽:社内の雰囲気をより良くしようと思われる姿勢は、当時も今も泉様のビジネスの根本なのですね。


泉:会社が苦しかった時の話になりますが、私自身も苦しかったのは、社員が辛そうにしているというよりも、会社の文句を言っていることでした。社長や支配人に対しても文句を言い、物事を誰かのせいにするのです。自分自身もそれを聞くことが一番辛かったです。ただし、文句を言う側もきっと辛く、その真面目さゆえに口に出してしまうのだと私は思います。また、経営者側の立場も分かりますので、私はそのような不平が出ない会社にしたいと思いました。


 経営者は、社員とその家族が普段から考えていることや、価値観のようなもの、また押さえるべきポイントを理解しようとする努力が必要です。逆に会社は、社員の皆さんに、会社が何を目的として、どこに進もうとしているのかを理解しようとする思いを持たせないといけない。


 もちろん、完全に理解し合うのは無理だとは思いますが、社長をはじめ経営陣はとにかく社内に集中すべきで、社員にとって働きやすく、過ごし易い、気楽な気分になれる、そう思えるような会社にしていくことが良いと思っています。


設楽:泉様が社内を整えている分、スタッフの方はおもてなしを含め、お客様に集中し、主体的に動いてらっしゃいますね。TrustYouも頻繁に使っていただいています。どのようにして、そのような会社の文化が出来上がったのでしょうか。


泉:“お客様の声は大切です”という意識は昔からありました。情報システム内にデータベースを作り、自社アンケートの回答や楽天、じゃらんのクチコミを手作業で入れて、社内共有するということを約20年前からやっていました。ただ、開始当時から悪いクチコミがクローズアップされることが多く、社員もお客様のコメントを見るのは大切だと分かっていても、犯人探しのようでデータベースを見るのを"嫌な作業"という感覚を持っていました。

お客様が投稿するクチコミは、良いコメントの方が数としては多いはずです。ダメな所は改善しなくてはいけないと思うのですが、良いクチコミを確認して、社員自身のモチベーションを高めることも重要だと私は考えていました。その時にTrustYouと出会いました。TrustYouは、クチコミを拾う範囲と数が違いますので、入ってくるクチコミは肯定的なものが大半であるということが改めて分かりました。

 そこで、投稿されたクチコミがTrustYouから自動転送される「アラートメール」を社員全員に配信できないかということを考えました。アラートメール配信用のメールアドレスを作り、所属しているホテルの従業員全員に転送する取り組みを始めました。

 アラートメールを転送し、強制的に良いコメントも悪いコメントも見せる。そうすると、自分たちがいかに良い評価を受けているかも認識できます。この取り組みは、大成功したのではないかと思います。


設楽:社員全員宛というのはすごいですね。皆さん、上層部の方や一部のみに配信することが多いのですが、“全員”というのがキーだと思います。


泉:実は、当初システム管理者からは、サーバーの容量には限りがあるので、反対されました。マーケティング部の部長からはシステム管理者が「やっちゃいかん、言うてますが、どうしますか」と聞かれ、私からは「かまへんから勝手に設定しよう」みたいなやりとりがあったのですが、それだけ社員全員にクチコミを見せたいという思いが強かったのです。


設楽:全員が同じ情報を共有するのは良いですね。皆ホテルの従業員であるという一体感や、お客様に対しても真摯であるという姿勢が御社の取り組みで分かります。


泉:これまでメールを見られないアルバイトの方とかには、良いクチコミを紙に出力して、タイムカードの横に貼ったりして共有していました。最近では、弊社もSlackというチャットアプリを使いはじめたので、Slackに特定のチャンネルを設けて、そこにTrustYouのアラートメールを流せるようにし、アルバイトの方もSlackをPCやスマートフォンで確認できるようにして情報格差をなくしました。アルバイトスタッフが名指しでお客様からお褒めいただくこともありますので、それを確認できるようにし、すぐ本人に喜んでもらいたい、またそれを全社員に見てもらいたいと思いました。


設楽:社員の皆さんからの反響はいかがでしょうか。


泉:そうですね。基本的にはEメールで配信していた頃よりも活発になりました。Slackは「いいね」ボタンがあったり、絵文字を入れたりできますので、気楽に反応を返すことができます。Slackのメッセージでのやりとりするのは、社員にとっても受け入れやすく、悪いクチコミが入った時の叱り方なども非常にかわいらしくなりました。


設楽:なるほど、以前のように仰々しくなくなったのですね。



TrustYouは弊社社員の教育係、接客マナーも含め社員を支えてくれているシステム


泉:はい。また、お客様が投稿するクチコミも全てが正しく完璧なものではなく、投稿される方と施設との価値観も異なりますので、それで一喜一憂していたらダメだと思っています。ネガティブなコメントを書かれた場合、当事者である担当者が辛いのは当たり前ですが、社内でそれに追い討ちをかけるようなことは必要ないと思っています。

 また、ネガティブなコメントを見て、反省しない社員など、弊社にはいないと思います。もし、反省しないようでしたら、それはその人を雇った経営サイドの責任です。スキルが足りないなどの事情や理由がある場合は、スタッフ自身がどうすればスキルアップできるのかを自分で考えてなくてはなりません。

 私だけかもしれませんが、私はTrustYouを弊社社員の教育係のように、接客マナーも含め社員を支えてくれているシステムだと思っています。もちろん、実際に支えてくださっているのは、TrustYouの先にあるお客様ですが、そこをパイプでつないでいただいていると思っています。


設楽:ありがとうございます。現場と経営陣両者がTrustYouのデータを共通言語として活用いただいていることが、活用のポイントですね。


泉:また、現場からは、施設の修繕が必要な箇所(壁紙がはがれた、空調の不具合など)の詳細を毎回私に報告する必要がなくなったので、楽になったと聞いています。以前は、修理修繕が必要であれば、エアコンが効かないというお客様からの苦情が何件あったのか、数字を経営陣に報告する必要がありました。今では、クチコミでそのような情報を常に把握していますので、社員から「クチコミをずっと見てらっしゃいますよね」と言われ、逆に経営陣も言い訳ができなくなってきます。


設楽:そこはお互いにデータを介して会話ができているのですね。


泉:はい。私としては、現場の社員には、なるべくお客様に集中できるようにしてもらいたいので。

 さらに、最近、私が考えているTrustYouの別の新たな使い方もご紹介したいと思います。コロナ禍で、ホテル・旅館の経営は厳しい状況になっていますので、弊社も金融機関とお話をさせていただく機会が増えてきました。TrustYouで各施設のスコアを出し、悪い所も良い所も資料に入れ、実際のお客様のコメントを入れた資料を金融機関の方に見せました。すると、金融機関の方も弊社の実力が分かりやすいと思ってもらったようです。つまり、TrustYouのレポートの一部を切り貼りして、経営データの一つとして活用することができるのです。

設楽:お客様の声に耳を傾けることが経営陣の皆様の習慣になっているからこそ、できることだと思います。


泉:今回、ご紹介したいエピソードがもう一つあります。先日役員会で、会長である私の父が「このTrustYouというのは信用できへんな」と言い出すのです。「信用できへんというのはどういうことですか」と私が聞くと、「どうも良いことばかりが書かれすぎている」と言うのです。父としては、褒め言葉が多いから、その褒め言葉に甘んじるなよ、という経営者としての戒めのメッセージを私に伝えたかったのでしょう。


設楽:良いお話ですね。それだけ良いクチコミが多いのは、”CSの向上はESの向上”と言われるように、従業員の方がこの会社で働いていて良かったと、思えているからですね。



上質を目指すには、お客様の期待値を上回ることが必要


泉:クチコミというのはコストパフォーマンスに関するものがほとんどですよね。お客様がためらって対価を払うか、喜んで払うか、こんなもんかと払うのか、それが点数に現れますよね。そこで弊社は、”高級である必要はない”と社員に伝えています。高級であればそれなりの対価が必要になりますが、弊社ではあくまで“上質を目指そう”という話をしています。

 上質と言うのはお客様の期待値を上回ることが必要と考えています。また上品であることも必要です。社会に対して、後ろ指をさされないような施設、サービスのあり方や環境であるかもしれない。経営者が人を裏切らない前向きな所、社員に対してもきちんと報いる会社であることを示すことができれば、質も高まるはずだと思います。

 お客様に泊まっていただくのに、たとえ1泊5000円、4000円あるいは3000円でも良いのです。やはり、お客様が求めている質よりちょっと上を目指す。上質の宿泊施設を作っていくのが大切だと思っています。最後になりますが、弊社はそのような会社です。


設楽:本日は貴重のお話をいただき、ありがとうございました。

アイアンドエフ・ビルディング(株)運営施設:ホテルビナリオ梅田、ホテル花庵、湧泉の宿ゆあむ

泉 邦治 氏プロフィール:

1970年兵庫県神戸市生まれ。同社入社後は、レストランのスタッフから始め、レストランマネージャー、宴会マネージャー、婚礼マネージャーをはじめ様々なホテルの現場を経験。2013年に代表取締役に就任、アルバイトを含め従業員の幸せを願う会社経営に取り組んでいる。趣味はクラシック鑑賞、ゴルフ、写真撮影。


アイアンドエフ・ビルディング株式会社 公式サイト:https://iandf.co.jp/

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